食養と健身

 

健康な身心というのは、貴重で尊いものです。
それは人間が生きていく上での普遍の原則ともいえるでしょう。

武術を志す者であれば猶更のこと、授かった技術や理念を末長く活かしていくためにも、すべからく健やかな身心を築いていくように心がけたいものです。

そのための基本となるのが、呼吸であり、食事であり、運動であり、休息や睡眠となるはずです。

今回の稿では、その中でも土台となる食養について記したいと思います。

丈夫な身体を築くには、栄養補給が欠かせません。
幼少時や育ち盛りはもちろんのこと、壮年期や老年期を向かえてからの衰えを抑えるためにも、充実した食事を摂取することが基本的には望まれます。

幼少時から青年期に至るまでは、何を食べても消化吸収が捗ります。
そのため好き嫌いをせず、さまざまな食品をいただくことが理想です。

(だからといって、原材料すらもわからないようなジャンクフードの類は、出来うる限り食さない方が賢明です)

地産地消を心がけ、加工品や添加物や精白糖や合成甘味料を避けることによって、より壮健な身体が育まれていくでしょう。

(近年では、味噌や醤油にもアミノ酸等として化学調味料が添加されているので要注意です)

その地で穫れる新鮮な農産物には、土地ならでは滋味が充ちています。
また人口密度の低い地方ほど、土の滋養も豊富に残っており、味わい深い作物が収穫できるのが感じ取れます。

(ミネラルの語源が「鉱物」であるように、カルシウム、鉄、リン、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、塩素、ヨウ素といった栄養素も、元となるのは鉱物性の微量元素であり、それらが豊かな土壌に溶け込むことによって、野菜や海産物に吸収されていくのです)


海産物を積極的に取ることで、脳機能も効率よく働くようになります。
特に鰯や鯵など近海物の青魚は、脳の発達に貢献してくれます。

その効果は意識的に継続して摂取するほど、学問や身体文化や芸術活動といった多様な場面においても、幅広く実感できるようになっていくことでしょう。

いりこや煮干しを常食していたお年寄りは、高齢になっても元気な人が多く、骨粗鬆症や痴呆にもなりにくい。
そういう意味では壮年以降も、青魚による栄養素を取り続けることは有効といえます。

ここで気をつけなければならないのは、食材の産地や養殖であるか否かです。

近年は海洋も汚染が進んでしまい、安全な魚介を選ぶのにも相応の知識や経験がいることが増えました。

加工品にしてしまえば産地の表示義務がなくなります。
あるいは産地の偽装などが日常化している市場も少なからずあります。

養殖されたものにしても、一概に安全だとはいえません。飼料についての表示義務がないため、産地や製造法のわからない安価な餌を投与して育てている業者が、決して少なくはないからです。

そのあたりは、畜産業界も同様です。
畜肉も乳製品も卵製品も、生産者を追跡するトレーサビリティが、国内では充分に整備されていないのが現状だといえるでしょう。

成長期の若者に限っていえば、肉食は身体を大きくするのに役立ちます。
骨格を大きくしたければ、牛肉を幼少時から積極的に取るのがよいというのは、民間の一部ではわりとよく知られた経験則にもなっています。

なぜ、そのようなことが起こるのか。
牛肉は肉類の中でも高値で取り引きされるため、成長を促すためのホルモン剤が投与されることがめずらしくありません。
そうやって育てられた肉を摂取することにより、人間も成長期における発育を促されるといった研究結果もあります。

しかしながら畜産業界は、世界の穀物市場を支配する多国籍穀物メジャーと通じているため、それらの巨大組織に不利益をなす研究発表は、アカデミーでもマスメディアでも規正されてしまい、広まりにくいといった現実があるのがうかがえます。
仮に副作用や害などがあったとしても、なかなか民衆にまでは伝わらない。

(オランダの成人の平均身長は、男性で190㎝近く、女性でも180㎝超という集計が、一時期は出ていました。その隣国のドイツも、骨格の大きな成人が目立ちます)

(こういった傾向は、年代ごとの推移を見ればわかるように、第二次大戦後の近代化以降は、より顕著になってきているのです)

(やはり穀物メジャーによる安価で栄養価の高い濃厚飼料の供給と、医化学メーカーによる成長ホルモン剤の普及が根底にはあるのではないでしょうか)


それでもウェブが普及して以降は、動物性のタンパク質は消化に時間がかることや、動物性の脂肪は血管や肝臓にも負担をかけることが、徐々に知られてくるようになってきました。

「成長期に骨格を大きくしたい」といった明確な目的などがない限り、過度な肉食や乳製品の摂取は、慎んだ方が安全といえるのかもしれません。

成長期以降は、徐々に肉食を減らしていくことが、動脈硬化や内臓疾患を防ぐことにも繋がっていきます。

二十五歳くらいからは、なるべく牛肉や豚肉を避けるようにして、主菜を鶏肉や魚介に切り替えながら野菜を多めに取るようにしていくことで、加齢による衰えを緩やかにすることも可能です。

(欧米のメジャーなプロスポーツの世界でも、近年では牛肉などのレッド・ミートを控えるように栄養士が取り組んでいるという事例が増えてきています)

三十五歳くらいからは、魚介と野菜中心のシーフード・ベジタリアンになるのも、心身の健康を保つためには、とてもよい試みだといえるでしょう。

では肉類以外から、どのようにして栄養素を不足させないように摂取していけばよいのか。

それについては次項「菜食のすすめ」で解説できたらと存じます。