「光圓流 古武術 空手 PV」解説

 

昨今はウェブ上にも、さまざまな武術関連の映像があふれています。
格闘競技のような動画ならば、それらの判定基準に応じた見方をすればいいのでしょうが、武術となると目的や表現方法も多彩になり、どこに主眼をおいて映像を観察すればよいのか、よくわからない人も多いのではないでしょうか。

光圓流では「どのような意図をもって、その映像が撮影されたのか?」
それを踏まえた上で「撮影されている技術の実際の効果や普遍性」に着目するように指導しています。

具体的にいえば、技が効くかどうか? 使えるかどうか? そこに視点を注いで、力学的・心理学的な分析を加えてゆきます。
小手先の動きにとらわれることなく、軸、重心、距離、角度、速度などを把握する。それによって、力学的な見解を得る。
またそうした積み重ねが、武術においてもっとも大切な「眼力」の養成にもつながってゆくのです。

以下、当流のPVを参考に解説してみましょう。

『光圓流 古武術 空手 PV』

シテ(技のかけ手)が師範で、ワキ(技の受け手)を務めているのがロシアから学びに訪れているPさんです。

※映像や音声について、一切の加工はしてありません(早送りや効果音などは使用しておりません)


動画の冒頭では「猪落とし」という技法が披露されています。
ここでは相手の突き技に対して、「受けた刹那に崩す、力を転化する、重心を浮かす」といった高度な操作を、わずか0.2秒以内に連動させて行っています。それにより、受け手の体には自らの攻撃力が倍加されて跳ね返り、大きく吹っ飛ばされて受身をとってもなお二回転あまりするほどの力積が産みだされているのです。
 
いかに高度な技法なのかは、実際に受けてみるか、それとも自身で同じことを体現できるようにならないとわからないかもしれません。腕と眼力に自信のある方は、ぜひ再現できるかどうか試してみていただきたい。
同じことができる人間であれば、この「猪落とし」に秘められた術理の奥深さや、応用によって無数の仕留め技へつなげていけるのが実感できることでしょう。
 
実践者であれば、まず「動画と同じ速度で同じ距離を、重心を浮かすことなく続けざまに踏み込んでいけるか?」 それだけでも試してみてはいかがでしょう。専門的な歩法の修練を相当に積まないといけないことがおわかりいただけるはずです。
 
PVにはその後、山影(側面入身)という技法が収められています。
ここでも「触れたときにはすでに崩しや転化」が行われているのがわかるでしょうか。このあたりが見えてこないと、前述した猪落としの原理はつかめません。
中心を制して完全に崩しているからこそ、その後の「転換」で相手をいとも簡単に操れるのです。軸やバランス感覚の弱い受けが相手なら、転換だけで錐揉みさせて転がしてしまうことも可能です。実際に稽古中は、何度もそういった場面が見受けられます。他流の高段位の持ち主でさえ、軸を意識的に鍛えていなければ、簡単に崩されて転がされてしまうというのはめずらしいことではありません。
 
本当に効く技というのは「無造作」にかけても、まるで力ずくでかけたように劇的に極まるものです。
よくある演舞のように、受け手にわざわざ「飛んでもらう」必要もありません。飛ぶ猶予さえ与えないのが、効く技であり使える技であるといってもいいでしょう。
 
技を効かせるために必須なのが、いわゆる地力です。
技自体に力を宿す。
これが弱ければ、自分よりも小柄な相手、非力な相手、遅い相手にしか技をかけられません。
 
ここで初心者が誤解しやすいのが、技を効かせるための力学「力の用い方」や「力の産み出し方」です。
極端な例では、腕力で相手をコントロールしようとしたり、手足といった末端に力を込めるあまり、自らの動きを殺してしまっているような場面すら見受けられます。
 
力は、自らを制御するためにこそ用います。
立ち方、姿勢、足捌き、重心移動――これらをより速く(早く)重く(強く)精緻に操ることが、技の効きに直結するからです。
すべてを制御して統合するためには、脱力が必須になってきます。これにより重力を味方につけ、また呼吸の力も活かせるようになってくるのです。
 
力は、中心より産みだします。
手足はそれをより速く正確に伝えるために用います。
こうすることで相手に察知されにくく、確実に芯まで効く技が育ってゆくのです。
 
極論すれば、相手は関係ありません。
相手をどうこうをしようというのは、競技的な発想です。
武術は己と向きあうための手段です。
だから相手を見過ぎず、無造作に動けばいい。
 
この無造作を、いかに掘り下げて実践で使用可能なまでに高めるか。
そのための基本や行法や型稽古が、当流には存在しています。
 
かたちを知ることで、無形を知り無造作になっていく。
そうした道筋を実践研究を通じて覚えていくのです。
 
PVに収められている猪落としも山影も、ありがちな組稽古や演武とは、少々趣が違ってみえるはずです。
それは「無造作」に技をかけているからに他なりません。
たとえ不意打ちをされても、まるで何事もなかったかのように無造作に対処する。
それが当流の高段者に現れる顕著な特徴でもあるのです。
 
無造作を実現するためには、かたちや技法だけでなく、日頃の心構えや自在に動く体づくりが重要になってくるのに、お気づきになった方もいらっしゃることでしょう。
剣術で用いられてきた「心技一体」という概念が、無手の体術を通じて「心技体」へと変化した背景が、ここに見てとれます。
 
体術というのは奥が深い。
その奥深さは、武器を捨てることによって、あらためて自らの心身と向きあう作業によってもたらされました。
平和な時代ゆえの体術だからこそ、誰もが自らの肉体を通して、その深淵に触れることが可能となったのです。
 
以降、機会があれば「光圓流 古武術 空手 PV」の解説、型編および約束組手編をお送りしたいと思います。
ご精読、ありがとうございました。

光圓流 PV 予告編

収録内容

・叢雲[むらくも](受け崩しからの入身投げ)
・凝り・凍り[こごり・しばり]
・連突きからの羽々斬‐裏[はばきり‐うら]
・猪落とし
・セーサンの終動