剣技と矛


中世以降の日本の武術では、剣と槍が重要視されていました。
そこには度重なる戦国時代や、武家社会が成立していく過程というのが見てとれます。

戦時では遠くから、あるいは馬上から相手を仕留められる槍が重宝され、平時では太刀と脇差しを帯刀するようになっていく。刀を帯びるということが、身分制度の一部としても定着していく。

そして平和な時代が長く続くと、携帯に不向きな槍は次第に廃れ、居合や竹刀による剣術が武術の中心を占めるようになっていきます。その流れが現代にまで続いている。

では、剣槍以前までさかのぼると、我が国にはどのような武具が存在していたのでしょう。

槍の前身となった武器としては、矛〔ほこ〕というものが有名でした。
両刃の剣状の穂先を備えており、刺突性にすぐれているのが矛の特徴です。

この矛を長柄の先端に取りつければ、槍の原型となる。

また矛自体を「剣」として用いることもありました。

国産み神話でも天沼矛〔あめのぬぼこ〕が登場するように、矛は古くから日本に伝わっており、国家の成り立ちにまで関わってくる武具でもある。

古墳や遺跡からは、青銅製の銅戈〔どうか〕が発掘されることも多々あります。

出雲の荒神谷遺跡からは、三百五十八本の銅剣がまとまって出土したこともありました。
これは全国の埋蔵地の中でも最多の出土数であり、古代の山陰には土着の一大勢力が根づいていたことを伺わせます。

出雲の荒神谷遺跡からは銅剣だけでなく、十六本の銅矛も発掘されております。

銅剣と銅矛の違いは、大きさや形状、そして実用性にあります。
武器として用いられていたのが銅剣で、主に祭祀用具として扱われていたのが銅矛ということになるでしょうか。

銅剣の形状は細く尖っており、取り回ししやすい大きさのものが大半。

銅矛は祭器や権威の象徴として用いられていたので、鎬が巨大化して樋の入っているものが目立ちます。
(病になった者の頭上で祭祀用の大矛を振り、樋鳴りによって邪気を払ったといった記述が、複数の古文書からも散見できます)

共通点としては、銅の加工技術が発達するにつれ、大型化や装飾が進んでいったあたり。
また弥生時代前期から造られはじめ、弥生時代末期には鉄器に替わられて消えていったのも共通しています。


荒神谷遺跡から発掘された銅矛。
銅剣に近い形状もあれば、あきらかに幅広な祭祀用も。


光圓流には、両刃の短剣術が伝わっております。

その短剣の形状は、ちょうど短い矛といった趣です。

両刃ゆえに扱いが難しい面もある。
しかし、両刃でしか成し得ない技法というのも、当然ながら生まれてくるわけです。

そうした技法を長剣でも活かせないかと、おそらく先達は考えたのでしょう。
銅剣や銅戈に目をつけたらしく、その模造品と思しき武具を用いて、剣術の稽古をするようになっていったのです。

両刃で刺突性の高い剣〔つるぎ〕を用いて稽古すると、さまざまな発見があるものです。

そのあたりは門外秘につき、詳しくまでは記せませんが、せっかくここを訪ねてくださった方々のためにも、上達の一助として重要な一例をあげてみることにしましょう。

剣道の試合などでは、長身の選手による上段からの攻撃に苦戦するという場面が、わりと頻繁に見受けられます。

上段からの攻撃を受けるために、竹刀を真横に掲げて防御したり、明らかに理を失った動きをしている選手もめずらしくない。

そういった状況下でも、両刃の剣技〔つるぎわざ〕であれば、理を失わずに対処することが可能となってくるのです。

振りかぶってくる相手の攻撃を、下から最短最速の動きで制すことが出来る。
ここがわかれば、両刃の剣の有効性や恐さというのにも思い至ります。

光圓流でも初心者のうちは、通常の木剣を振るって剣術の稽古を行います。

中心を抑える感覚を研いていくには、やはり剣術は欠かせません。

また素振り用の重めの木剣を振ることで、手の内や手首を急速に強化でき、肩胛骨の内側や背中を発達させていくことができます。

 

素振り用の三尺七寸の木剣。

(本赤樫を削りだしたもので、猪の罠猟の仕留めにも使うため「宍落」と呼ぶことも)


上は通常の鍔付き木剣。

 

基本的な剣術の稽古が一段落して、ようやく両刃の剣を扱うようになります。

剱伎〔つるぎわざ〕は非常に奥が深く、攻防一体や相抜けといった技法へ到る道をも示してくれます。

光圓流で用いている木戈〔ぼっか〕の写真を以下に掲載しておきます。

本赤樫の五尺(約150㎝)の木戈、重さは約9キロ。

素振り用の木剣「猪落」が3キロ弱。
通常の木剣は1キロに満たない。


この大きさになると、姿勢を糺して振るだけでも結構な鍛錬になる。

さまざまな形状の木戈で充分な研鑽を詰んだのちに、いよいよ銅戈〔どうか〕や鉄戈〔てっか〕での稽古に移っていくことになるのです。